1.実施基準案の概要

(1) 実施基準案の構成  二〇〇五年一二月、企業会計審議会・内部統制部会は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」(以下内部統制基準案といいます)を公表しましたが、これは内部統制の定義、概念的枠組み、経営者の評価や公認会計士等による監査についての基本的な考え方を示すものでした。これを実務に適用して行く場合のガイドラインとして、昨年一一月下旬に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」の公開草案(以下実施基準案といいます)が、公表されました。  なお、この実施基準案は、約一ヶ月間にわたり意見を公募したのちに確定することになっていますので最終的な実施基準では、実施基準案の内容について修正がありえますので、留意してください。  実施基準案は、以下の三つの大きな項目により構成されています。   I.内部統制の基本的枠組み   II.財務報告に係る内部統制の評価及び報告   III.財務報告に係る内部統制の監査  この構成は、内部統制基準案の構成と同じです。  「I.内部統制の基本的枠組み」では、内部統制の四つの目的、六つの基本的要素についての詳細な説明や留意すべき事項を示しています。また、実際に経営者が何をしなければならないのかを明確にするために、財務報告に係る内部統制の構築プロセスを例示しています。  「II.財務報告に係る内部統制の評価及び報告」では、主として次の項目について実務上の指針を示しています。  ・財務報告の範囲及び内部統制の重要な欠陥とは何か  ・どのように評価範囲を決定するか  ・評価を具体的にどのようにして行うのか-評価の方法-      内部統制の有効性の判断をどのように行うのか     〔 内部統制の不備や重要な欠陥への対応    〕      評価手続が実施できなかった場合の対応      評価手続の記録や保存  「III.財務報告に係る内部統制の監査」では、内部統制監査の目的や監査の方法等について、具体的な取り扱いを示しています。 (2) 実施基準案のポイント  日本における財務報告に係る内部統制の評価及び監査制度は、二〇〇四年度から制度化されているアメリカのSOX法の経験等を参考にし、国際的な調和を考慮しながら日本独自の制度を目指すものです。実施基準案の主な特徴として以下の点があげられると思われます。  〓 トップダウン型のリスクアプローチの具体化  〓 企業の事務負担への配慮  〓 監査の効率重視  〓 トップダウン型のリスクアプローチの具体化  トップダウン型リスクアプローチとは、経営者が会社の実態に応じて財務報告に係る重要なリスクを判断し、このリスクに焦点をあてて当該リスクに係る内部統制が有効かどうかを評価するというアプローチです。  実施基準案では、評価および報告の準備作業として、内部統制の構築責任を負っている経営者に対し、どのようにしたらよいのかを示すために、財務報告に係る内部統制を構築する場合の要点とそのプロセスを明示しています。  また、経営者が内部統制を評価する場合においては、評価範囲の絞り込みを行います。この評価範囲の絞り込みのプロセスにおいて、全社的な内部統制が重要視されています。すなわち、経営者は、まず、すべての事業拠点について全社的な内部統制の評価を行い、その評価結果を踏まえて評価対象となる事業拠点の選定と業務プロセスを決定します。  例として  〓重要な事業拠点の選定において、全社的な内部統制が良好な場合、売上等を基準として、およそ2/3程度をカバーする事業拠点を選定する  〓選定された事業拠点においては、一般的な事業会社では、原則として売上・売掛金・棚卸資産に関する業務プロセスを評価対象とする  〓 企業の事務負担への配慮  アメリカでは、財務諸表及び注記を対象として、その適正性を保証する内部統制すべてについて評価対象とする(たとえばカバー率を九〇%とする)方法がとられたため、監査人サイドからの保守的な要請も影響し、評価作業は相当なボリュームとなり企業の事務負担が大きくなりました。  実施基準案では、上記〓のようにトップダウン型リスクアプローチが採用され、財務報告に係る内部統制の構築プロセスにおいて、財務報告の信頼性を確保するという目的を達成するうえでの最低限の対応を行い、また、評価範囲の決定において評価範囲の絞り込みを行うことにより、企業の事務負担に関する配慮がなされています。特に、中小規模会社においては、この点に十分留意することが重要です。  〓 監査の効率重視  内部統制監査では、経営者が行った内部統制の有効性の評価結果に関する主張を前提として、この主張に対して監査人が意見を表明するものです。監査人が直接、内部統制の整備・運用状況を検証する形をとっていません。アメリカのように監査人自らが内部統制の有効性について意見表明を行う直接報告業務(ダイレクトレポーティング)は実施しません。上記〓のように、会社が評価範囲を絞り込んだ過程と結果が、内部統制監査に影響を及ぼします。  また、内部統制監査は、同一の監査人によって、財務諸表監査と一体となって行われます。監査においては必ず監査証拠を入手しなければなりませんが、監査の過程で入手した同一の証拠が、内部統制監査と財務諸表監査の両方が利用される事があります。  以上のような点から、内部統制監査が効率的に行われることが期待されています。

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