はじめに

私は経営資源の中で、「人と生産性」にかかる企業文化に興味をもち、好ましい企業文化を醸成する具体的な方法が、評価システムと考えてきました。そして「企業文化をうまく反映させた賃金体系づくり」に、長い間、チャレンジしつづけてきました。
そんな経験の中で、中小企業の経営者の方々に喜ばれてきた「人の定着とその育成方法」について、少しでもみなさんに知ってもらいたいと思い、本書を書き始めました。
ところが、ベンをとってまもなく、企業の急激な業績悪化にともない「人の定着」などと、流暢なことは言っていられない状況になりました。2009年に入り、わずか数カ月の聞に次々と企業の大リストラ策が発表され、事実、派遣社員にはじまり、たくさんの人が悔しい思いをしながらも、職場を去りました。また、企業に残っている人たちも定期昇給の凍結、賃金ダウンが一般的となりました。「いつ、自分の首が切られるかもしれない」、そんな不安な精神状況の中で仕事に打ち込んでいます。
そこで急速、執筆の視点を「賃金ダウン」に変え、日本の経済を支えている中小企業の経営陣とそこで働く人たちに与えるマイナスの心理的影響をどう乗り超えるべきなのか、私なりの考え方と生き残りのために取り組むべきことをまとめてみました。その具体的な方法として、「社員が納得する5%賃金ダウンの実際」について、戦略的な人件費の決め方を提示しました。「人はどんな苦境の中にあっても、それを乗り超える智慧が与えられている」、そう私は信じています。「次に待っているチャンスを前髪でっかむための準備」は経営者だけでなく、そこに参加するすべての人々にも求められているのです。
もともと私は企業文化論に親しんでいます。「場の論理とマネジメント」(伊丹敬之著、東洋経済新報社刊)、「経営戦略の論理」(伊丹敬之著、日本経済新聞社刊)および「見えざる資産の戦略と論理」(伊丹敬之著、軽部大著、日本経済新聞社刊)の先見性ある示唆を座右の銘とし、これらを参考にさせていただきながら、大胆に主張を展開していきます。
また、執筆に当たり、私を励まし粗い原稿を多忙の中、忍耐強く整理してくれた同労の重田直治君および、多くのアドバイスをくださった東峰書房の村上直子さんに感謝の意を評します。

平成幻年4月吉日
小原 靖夫

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