3  「個人能力の活用」が「組織能力」を底上げする

五感をスイッチオンにして保有能力を引き出す
組織能力を高めるためには、個人がもっている能力(知識とその背後にある人脈)の相乗効果を活用して、創発的な力を生み出すことと、個人の能力を将来の活用のために向上させることが大切です。人間の能力を構造的に分類したら、このようになります。

潜在能力(智慧)――学習意欲―→保有能力――決断意欲―→発揮能力

潜在能力は、人類が生きるために必要な情報を求めて集積してきたものです。誰にでも与えられていますが、求められなければ眠ったままで動こうとしません。しかし、感性をもった命はよりよく生きたいという欲求が本源的にあり、理性をもった人間は欲望に秩序を与え、良心や優しさを生み出し、さらに向上心としての学習意欲を生み出しました。
すなわち身体に五感(味覚、聴覚、嘆覚、視覚、触覚)と記憶装置としての脳が与えられたわけです。五感が興味・関心・好奇心に動かされて、記憶装置(脳)と協力し、観察力をつくり、学習意欲を刺激して潜在能力から保有能力を抽出するのです。
保有能力はある行動をするという決断意欲を通して、発揮能力になります。意欲とは意味ある欲求または意志を持った欲求で、意味は価値という言葉に置き換えられます。
観察力は五感と脳の協力作用でできています。
観察とは、身体のどこでするのかというと、それは口でもなく、耳でも鼻でも目でも肌でもなく、その全体を用いた興味・関心・好奇心への統合作用です。これらがなければ観察は始まりません。「待てよ!このことはどこかで味わったことがあるぞ」という潜在的記憶が興味・関心・好奇心とむすびついて観察が始まります。
観察が起きるということは、その人にとって情報の流れが起きているということです。これは学習意欲の源であり、後に述べる評価力に最も関連する能力です。

個人能力は経験とその質の掛け合わせで測る
情報の流れとの関連で、人の保有能力を考えてみます(こちら参照)。流れの左側にある整理は、興味・関心・好奇心が作用して蓄積されます。それがさらに優先順位がつけられ、整頓されるときに記憶の意欲の働いたものが知識となり、記憶されないものは体験となり、ともに保有能力となります。
個人の能力の有効性は、その人が蓄積した情報の量とその質をかけ合わせたものになります。知識となったものは、それが必要なときにすぐに取り出され、スピーディーな行動を可能にします。

興味・関心・好奇心の共有化で「組織能力」を強くする
個人のレベルで情報が、整理・整頓されるとき、何らかの形で他者に発信されると、その発信された情報に興味・関心・好奇心をもった他者が、それを受信することで情報の共有化が始まり、他者もまた整頓の段階で知識または体験となって、保有能力を高めます。
組織は、報告・連絡・相談という公式的なコミュニケーションによって情報の収集をし、企業のもつ興味・関心・好寄心のフィルター(企業文化)によって整理され、整頓されていきます。その情報蓄積量の和が、組織能力の源になります。
組織能力とは、業務遂行能力、問題解決能力、開発力、コミュニケーション力などですが、現実的には「この問題ならこの人に聞くのが一番!」「安心して相談できる人がいる」「安心して助言してくれる人がいる」「安心して任せることができる」という信頼の連鎖、すなわちそうした情報が行き渡った共有化の網の目が、組織能力と言えます。
共有化のはじまりは、情報が発信されることです。組織能力を高めるためには、情報を発信しやすい雰囲気が醸成されている必要があります。情報の受信者がその情報の意味や価値を感じとろうとして、積極的に聞いてくれることにより流れる情報の束が太くなっていきます。この情報の束が太くなることが、組織能力が高まるということです。

「気づき」がたくさんある情報は質がいい
個人の能力は情報の蓄積量とその質の掛け算であると述べたように、組織能力も組織情報の蓄積量に、その質を掛け合わせたものになります。
蓄積量を増やすには、組織に流れる情報量を増やすこと、そのために発信しやすい環境、受信者がいい質問をして聞き出す能力を高めておくこと、および情報を整理整頓するインフラを整備しておくことが必要です。インフラにはIT機器も入りますが、報告・連絡・相談ルートの整備をして情報の流れるパイプを太くし、かつ風通しのいいものにしておくことが大切です。ではどんな情報が、質がよいのでしょうか。
むずかしい内容が質がよいと錯覚してはいけません。新しい情報に素早く反応して、自分自身が新しい内容に生まれ変われる情報を質のよい情報と言います。単に蓄積されているだけで収まっているのでなく、自分の出番を待っている情報が、よい情報です。取り出しやすくする、出てきやすくするための整頓(ファイリング)と優先順位づけ(プライオリティ)が、多くの人に共通理解されていることが大切です。
質のよい情報を集めるには、企業の目的に焦点を合わせた感度のよいアンテナを張っておくこと、そのためには目的が多くの人びとに浸透していること、すなわち戦略の共通理解が深く進んでいることが必要です。
組織能力は、単に情報の蓄積量が増え、知識が豊かになり二人ではできない仕事も安心して引き受けることができるという側面ばかりでなく、能力を向上させるプロセスのなかで行われる情報交換が、人々の心理的相互作用を活発にして、感情の流れを豊かにします。
共鳴・共感の度合いが深まると励まし合ったり、助け合ったり、慰め合ったり、厳しいフィードバックをし合ったりして苦しみをともにし、喜びをともにすることができます。仕事の達成を喜び合い、祝福し合うことができるのも組織(職場)あってのことです。組織能力を高める中で、立場の違いを超えた相互の共通理解によって、今あるマイナス要因をプラス要因に変える可能性を予見できます。
今を忍耐のとき、次のチャンスを最大に生かす準備のときとして、とるべき戦略の計画と実行が望まれます。

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