おわりに

私は2009年ー月、初年来のおつきあいのある社長の、「研修」での年頭挨拶に勇気づけられ、一慌が出るほどの感動を覚えました。
それは、ご自身の元旦の不慮の事故の話で始まりました。

「元旦の早朝にある発明案が思い浮かび、確認したいことがあって工場の扉を開けた。
構内は清掃が行き届き、自慢の55の実践ぶりに感謝の気持ちでいっぱいになった。当面の用事をすませるために、私はある機械を鉄の台車で移動して扉を閉めて帰宅した。2日の夜中に、また閃いて会社に行き、同じように扉を開け、自分の発案に夢中になって勢いよく中に入ったとき、先刻の台車に足の腔をぶつけてしまったのです。
深夜の暗闇に、私の大きな悲鳴が響き渡ったほど痛かった。元日一の日に台車を元のところへ戻しておけば、こんな事故は起きなかった。いつも社員の皆さんに5Sの徹底を言っている私が、自らの不実行で負傷したことを正月早々に誰にも言うことはできなかったのです。家族にもひた隠し、病院にも行かず、痛みと傷の化膿に耐えてーカ月近くになり、やっと肉が盛り上がってきました。
整頓を怠ると大きなけがになることをまさに実感させてもらったできごとだが、この痛みと闘うなかで、皆さんの日ごろの5Sの徹底に感謝し、これからも一緒に長く働いていきたいと、強く願ったのです。
わが社は昨年から大きな設備投資をはじめており、多くの不安の声も聞いています。しかし、この計画は断行します。不況の底はまだ見えていませんが、必ず出口はやってくる。その出口が見えたときに、準備をはじめては遅い。準備は今から、そしてチャンスは前髪でっかむというのが、私の戦略だからです。
それを覚悟のうえで、誰一人、皆さんを辞めさせることはありません。賃金ダウンも回避したいと思っています。ただし、自分たちの役員報酬は見直します。ですから、5Sを今まで通り徹底しながら、安心して働いて欲しい。
さあ、5Sの目的は安全と安心の実現であることを改めて再確認して、目標を達成していきましょう。今年の目標は昨年より10%下方にしてありますが、目標達成したら、いつものように決算賞与を支払います」

こんな力強い締めくくりの言葉でした。
この会社の特徴の一つは、人間くさい戦略であることです。それは社員の心理や感情への配慮が日々の業務の流れの中でなされているからなのです。たとえば、日報を通して上司とのコミュニケーションが感情の流れまで交流できるようになっている。さらには、成果への報酬をいつも明確にして、その約束を必ず実行しているからです。
この会社から私がともに学んできたことは、評価システムが定着すれば、査定から評価に変わることができる。すると、現場の人たちがさらに努力を積み重ね、それが集積されて自発的な問題解決サイクルがまわりはじめる。さらに、5Sの徹底が市場に認められることで、毎年3%の成長を着実に達成できることでした。
次なる飛躍の戦略を打つならば、経営資源である人と人が創り出す風土の改革をするときが来たのだと強く感じます。
最後に小さなトライが必要であることを、英文字で発見しました。ピンチをチャンスに変えるには、「(CHANGE(チェンジ)をCHANCE(チャンス)に変える」、つまり、GをCに変えるTry(トライ)をすることなのです。

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